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It Ai Mi me story第1話

新しいブログになり、前のブログから続いているお話(私ではないコウガとキィ、チィのお話)を始めるに
元になっているお話をうp致しますw

このお話では、登場人物がコウガ、マイ、アイになっておりますが、
家の1/3ドールのキィやチィはこのお話のマイとアイが元になっていてこのマイ、アイのイメージに添って
私が作った娘がキィとチィになるのです。

…なので、私のHNをコウガにしたのは、失敗でしたね~wwwww

ちなみにこの間の記事(チィのお花見と昨日の麗奈の話)はこのお話の延長上のお話になります。

少々長いお話なのですが、宜しくお付き合いください。


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       =It.アイ.マイ.me.story… =
                  
     
<プロローグ> 

オレは国立神杜学園高等部二年、一条光牙17歳。

今、オレは血の繋がらない姉妹と一緒に暮らしている。

この町では差ほど珍しい事では無いのかも知れないが、オレにとってはこの町のどんな非日常よりも大事(おおごと)だった。

姉の名は香月舞(こうつき まい)16歳、オレと同じ国立神杜(こくりつ かみもり)学園高等部に通う後輩、一年生だ。

妹の名は香月愛(こうつき あい)6歳、春には国立神杜学園小等部のピカピカの一年生に!!(古いな)

この国立神杜学園は小等部から大学院、更に病院や警察(検察)までも敷地内に要する、学園なのだ。
・・・そして、この学園いやこの町は一種特殊な存在となっている、この町にはオレ達人間(ヒューマン)以外にエルフ、ドワーフ、マーフォークといった種族が共存しているのだ。

この町にはいろんな家(家族?)が存在している。だからオレ達の事などはほんの些細な事かもしれないが、オレにとってはこの姉妹の事はこの町で起こるどんな出来事よりも大事(だいじ)なのだ。

まあ、いつかこの学園の事を話すことも在るかも知れないが、今は家の姉妹の話をしたいと思う…


<6年前…>

「待ってよー、コウちゃん!!」

「マイは本当に走るの遅いよなー」

「そんな事ないよ!」「コウちゃんが速いんだよー」・・・バタ…

女の子は両手で花を持っていたので見事に転んでしまった。

「ふぇっ…」

男の子は慌てて女の子に駆け寄り、汚れた箇所をやさしく払うと

「血は出てないぞ、歩けるか?」

「うん…」

男の子は女の子の持っていた花を拾い集めて、片手を女の子に差し出した。

「マイのお母さん、きっと待ってるぞ」

「うん!」

2人は手を繋ぎ、山の上に見える神杜病院へと向かって行った。


<病院にて…>

神杜病院の一室、そこにマイの母は出産の為に入院していた。
体の状態が良くないらしく、予定日の二ヶ月も前から・・・すでに一ヶ月が過ぎていた。

「お母さん」

「あら、来てくれたのね。」「今日は光牙くんも一緒なのね、嬉しいわ!」

「今日は、お花を持ってきたんだけど…」

摘んできた花は転んでしまった時に傷つき、汚れてしまっていたのだが・・・

「あら、とても綺麗ね。どうしたの?」

「コウちゃんが咲いている所を教えてくれたの!」

「そう、ありがとうね。光牙くん」

ーと言うと、マイの母はオレをやさしく引き寄せて抱きしめてくれた。

「あー、お花を摘んできたのは私なのにー」

「お母さん、舞ちゃんにはその綺麗なお花を花瓶に入れてきて欲しいなー」

「うーっ…」「はーい」

マイは持ってきた花と花瓶を持って病室を出て行った。

「光牙くん、聞こえるかしら?」「赤ちゃんの心臓の音…」

トクン・・トクン・・・確かにマイのお母さんの鼓動以外にもかすかに、いやはっきりと聞こえる・・・

「うん、聞こえる」

「光牙くんもこうして生まれてきたのよ」

オレの母さんはオレが物心付く前に死んでしまっている。
だからオレの母親像はマイの母さんそのものなのだ優しく、温かい、そして良い匂いのする女の人・・・

「あーっ!まだ甘えてる!!」「コウちゃんもうダメー」「私のお母さんなんだからー」

「あら、私は光牙くんのお母さんでもあるのよねー。光牙くん」

ーと言いオレをさらに抱きしめてくれた。

「お母さんね、生まれてくる子は女の子のような気がするの」
「そうなら『愛』という名前にしたいと思うのだけど、舞はどう思う?」

「うーん?…ワカンナイ」

「良いんじゃない」「アイちゃんだろ、マイとアイなんて簡単で覚えるの楽だし」

オレはマイの母さんから離れると、恥ずかしさからこんな事を言ってしまった・・・
それでも、マイの母さんは微笑みながら・・・

「光牙くんは気に入ってくれたようね。」「舞は?」

「うーん…良いと思うけど?」

「そう、良かったわー」
「『愛』のお兄ちゃんとお姉ちゃんになって頂戴ね。」

・・・・・

「あっ、お父さん」

「あ、父さん」

オレとマイの父親が病室に入ってくる。

「あら、男二人で仲が良いわね(笑)」

「ああ」「オレ達2人は深い愛で繋がっているからな(笑)」

「おいおい、あんまり気持ちの悪い事、言うなよな(笑)」

オレとマイの父親は古くからの友人であり、更に家が近所になったという事も在り親密な家族となっていた。


  <自宅にて…>

あの後、病院で看護婦さんに怒られたオレ達はすごすごと4人でオレの家に戻って来ていた。

オレの部屋で遊んでいたオレとマイはいつのまにか、眠ってしまったようで気が付くと2人でオレのベットに寝かされていた。

マイを起こさないように起きてトイレに行き、居間へと降りていくと父さんとおじさんの声が聞こえてきた。

「由香里さん、今日は具合が良さそうだったじゃないか」

「そうだな、このまま良い状態で居てくれれば良いのだけれどな」
「舞が生まれた時に、もう子供を生むのは難しいと言われていたのにあいつときたら『どうしても、この子だけは生みたいの』なんて泣きながら言い出すんだからなー」

「もう、ここまで来たら無事に生まれてくれる事を祈るしか無いものなー」「よし、赤ちゃんが無事に生まれることを信じて乾杯だ!!」

父さん達がグラスを合わせたのをきっかけに、電話が鳴り出した・・・

 ・・・・・

「はい。一条ですが…」
「えっ、はい、居ますが…」

 ・・・・

「はい。すぐに伺います。」

父さんは、受話器を置くと居間に戻りおじさんに・・・

「由香里さんの容態が急変したらしい、今から直ぐに病院に行こう」
「オレはタクシーを呼んでくる」

父さんはそう言うと電話機に戻っていった。・・・おじさんは暫くの間、動かないでいたがオレの姿を見ると・・・

「光牙くん、しばらく舞を頼む…」

ーとだけ言うと父さんの元へ走り出した。

・・・この騒ぎでマイも起きたようで、下に降りて来た。

「どうしたの?お父さん…」

「お母さんの容態が悪くなったみたいなんだ、お父さんお母さんの所に行って来るから光牙くんとおとなしくこの家で待っているんだ、いいね!」

「…うん、わかった」

タクシーが家の前に来たようで、2人は急いで乗り込んで行った。

 ・・・・

「…お母さん」

オレはマイにまったくなにも声を掛ける事が出来なかった・・・


<翌日…>

父さん達が家を出て行った後、オレとマイは一枚の毛布で身を寄せ合って朝になるまで包まっていた・・・。

オレは一人になりたく無かった。きっとマイも同じ気持ちだったと思う・・・。

マイと一緒に居れば、安心できた。マイのミルクのような甘い匂いと暖かな感触で・・・
でも、声を出してしまうとすべて壊れてしまいそうな気がして2人共言葉を交わす事は出来なかった。

 ・・・・・

朝になり、日の光が差し込むとマイが声を掛けてきた・・・

「コウちゃん…」

「何?…?」

マイの返事は無かったただ穏やかな吐息だけが聞こえてきた。
その吐息を感じながらオレも眠りに入っていった・・・

 ・・・・

お昼前頃、父さんが家に戻ってきた。気が付いたオレは居間に降りて行った。

父さんは居間に座り込んでいた・・・

「父さん…?」

「光牙か、舞ちゃんは?」

「上で寝てるよ…」

「そうか…。」「…光牙、…由香里さんが亡くなった。」

「えっ…?」

「…舞ちゃんを起こして来てくれないか」
「また、すぐに病院に行くから…」

「う…うん」

 ・・・・

オレは自分の部屋に戻り、眠っているマイを見つめた・・・
・・・どうしたら、良いのかオレには解からなかった。ただマイの涙は見たくないという思いだけだった・・・

「マイ、マイ起きろよ」

「あっ、コウちゃん…」

マイは朦朧とした目でしかし、しっかりとオレを見つめた。

「オレの父さんが帰ってきた…」

オレはそれだけ言うとマイの目線から外れた。

「う、うん…」

マイはそう答えると、ゆっくりと部屋を出て行った。

・・・・

そして、オレ達3人は病院へと向かった・・・。 


<月日は流れて…>

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毎年、家にはマイとアイの姿を写した年賀状が送られてくるのが、ここ数年恒例に成っていた。

そして、父さんは久々に家に帰って来ると、お気に入りの酒を片手にその年賀状を見るのも恒例と成っている・・・。
そして毎回、同じセリフを言い出す。

「愛ちゃん、大きくなったよなー」
「舞ちゃんはきれいに成ってきてー」・・・・

父さんは、毎年新しい年賀状が来ると(結構立派な)写真立てに入れ替えて居間に飾って居るのだ。
そして、古い年賀状は後生大事にコーテングして、出張先まで持っていく親バカ状態なのである。

そして、これまたいつものセリフ・・・

「それにしても健次の野郎、この年賀状以外は全くといって連絡、寄越しやがらねえ!」
「男の友情なんてのは、こんな物なのかね-…」

「まあ、便りが無いのは元気な証拠って昔から言うじゃん」

「だけどよー…」
「あーぁ、舞ちゃんと愛ちゃんに逢いたいよー!!」

「まったく…」「だったら、父さんから連絡すれば良いじゃないかー」

『それは、い・や・だ・!』

まったく、父さんもマイお父さんも変な所で似ていたからなー・・・

「でも、愛しい娘達に逢いたいぞ!お父さんは-!!」

おいおい、いつから娘に成ったんだよ(笑)
しかし、マイ達と別れてからもう5年も経つのかー・・・
父さんのお陰?で写真は毎日のように見ているが、本当に元気なのだろうか・・・?

オレは別れた日の事を思い出していた・・・・・


<アイ…>

由香里さんが亡くなって、半年ほど過ぎようとしていた頃にはアイも元気になり普通の赤ちゃんと同じように接する事が出来るようになっていた。

そして、アイが病院を出て来ると同時に北海道に引っ越す事になっていた。

マイのお父さん『健次』さんの肉親は今では実の兄である『健一』さんしか居ないらしく、その健一さんは北海道に奥さんと2人の子供と暮らしているらしいのだが、まだ乳飲み子であるアイの面倒を見て貰えそうな所はそこしかないらしいのだ。

・・・・

オレとマイはいつものようにアイの様子を見る為に神杜病院に来ていた。

初めて見た時は本当に『赤』ちゃん(赤くてサルみたいだった)だったアイも今では肌も白くなり髪も生えて、可愛い『赤ちゃん』になっていた。

今日はすでに保育器から出されて普通のベッドに寝かされている・・・。

「今日はちゃんと触れそうだぞ…」

「・・・・」「…そうだね」

「アイー、起きてるかー?」

アイはゆっくりと目を開けてオレの顔を見た。

「おー、ちゃんとオレの事を見てるぞー」

「だぁ」「だぁ」

アイは精一杯に手を伸ばしてきた。
オレも手を伸ばしてみると『わしッ』と指を掴かまれた・・・そして、その捕まえた手をブンブンと振り始める。

「きゃっ」「きゃっ」

アイは楽しそうに笑っていた。オレもつられて笑っていたようだった。

「・・・・」「やめてよ!ー」

マイはそう叫び、いきなりオレとアイの手を叩いた。
アイはびっくりして泣き出した。

「なにすんだよ!」

「・・・・・」「愛なんて居なければ良いのに…」
「愛なんて生まれなければ、お母さん死ななくても良かったのに…」

「コウちゃんも愛も嫌い、大嫌い!!」

マイは泣きながら、出て行った・・・。
オレの手には赤く叩かれた跡が付いていた・・・もちろん、アイの手にも…オレはアイの手を撫でた。

「ごめんなアイ」「痛かっただろ…」

しばらく撫でていると、アイは泣き止み目に涙を溜めながらオレに笑いかけてくれた・・・

「アイは良い子だな…」

アイはそのまま泣き疲れたのか静かに眠りについた・・・

「じゃあオレ、『お姉ちゃん』を捜して来るからな」

オレはアイにそう言って病院を出た。 


<マイ…>

病院を出たオレは思い付く所を片っ端から捜した。でもそこにはマイの姿は無かった。

「マイ-!」「マイー!!」

どうしようもなくなり、叫んで見たがやはり返事は無かった。いつも良く行く所は全て行ってみた、あとマイと行った事のある所は遠く過ぎてお父さん達に言わなくてはとても行けない・・・

「まだ『あそこ』があった」
「…でも、この時期じゃ・・・」

ーと思いつつも、オレの足はその場所へと走り始めていた。

 ・・・・・

息を切らせ、辿り着いた場所・・・そこは半年前に由香里さんの為に花を摘んだ所だった。
今はもう花は無く、枯れた草があるだけの広場となっていた・・・。

「ここに来て居たんだ…」

「・・・・・」
「…コウちゃん」「お花、全部枯れちゃった…」「全部…」

オレは震えているマイの背中を抱きしめていた。

「マイ…」

マイの体は冷え切って、冷たかった・・・長い間この風景を見ていたのだろう…。

「マイ」「お花は今、土の中にいるんだ。『種』という『花』になっているんだ」
「全部、無くなってしまった訳じゃない!『種』という新しい『花』に引き継がれて行ったんだ…」

 ・・・・・

「コウちゃん…『私』も『愛』も新しいお花になれるかな…」

「大丈夫、きれいな花になるさ!『舞』も『愛』も凄く綺麗な花に…由香里さんのように…」

「コウちゃん…」・・・・・

マイは堰を切ったように泣き出した、一生分くらい泣いたのではないかと思えるくらいに・・・

 ・・・・・

辺りが暗くなってきた頃、ようやくマイは顔を上げた・・・
涙と鼻水でぐしょぐしょになっていたが、オレにはとても愛らしく感じられた。
オレは自分のシャツでマイの顔を無理矢理に拭くと・・・

「ひどーい!」「痛いじゃないー!!」

ーとか言ってるマイにキスをしていた。

「・・・」

マイは突然なキスにびっくりして何も言えないでいた。

「ほら、アイの所に戻ろう…」

オレは手を伸ばすとマイは素直に手を繋いできた。

「うん、愛に謝らないと…」

オレとマイは手を繋いだまま神杜病院へと駆け出していた。


<電話…>

そして、とうとう別れの時が来た・・・。

すでにマイの家は売られて引渡しも済んで、アイが退院するこの日までマイと健次さんはオレの家に泊まっていたのだ。

凄く楽しい数日だった。この数日、2人の父さん達はオレやマイと一緒に過ごしてくれていた、オレとマイがケンカした時なんかは2人で心配して挙句にケンカし始める・・・
結局、オレとマイが仲裁したり…とにかく楽しい日々だった。

「アイ、元気でな…」

「きゃっ」「きゃっ」

アイはオレが声を掛けると楽しそうに手を振ってくれた。
父さん達はすでに挨拶が済んでいるようでオレとアイとマイを見守っている・・・。

「マイ…」・・・・

・・・・ジリリリリン…ジリリリリン…

父さんの趣味で手に入れた黒電話が鳴り出した。

「もしもし」

「一条さんのお宅でしょうか?」
「私、香月舞と申しますが光一さんは御在宅でしょうか…?」

「!?」
「マイ?マイなのか!?」
「オレだよ、コウガだよ!!」

「コウちゃん?なの…?」

「ああ、そうだよコウガだよ。」

「コウちゃん…」「………」

 ・・・・

「おい、マイ?」「どうしたんだよ」

「・・・・・」

「おい、泣いてるのか!?」「おい!マイ!」

「…お父さんが…」

「おじさんがどうした?」

「…倒れて、入院して…」

「えっ、おじさんが…そう…-で、容態はどうなんだ?」

「今夜が峠って、お医者さんは言ってます…」

「解かった。今からすぐそっちに行く、どこの病院なんだ?」

「札幌中央病院…」

「札幌の市内に在るのか?」

「うん…、そう、すぐ解かると思う」

「解かった。父さんも今居るから一緒に向かう」

「マイ、携帯とか持ってるか?」

「ううん、持ってない」

「じゃあ、その病院の電話番号を教えてくれ!」

「うん、判った」

マイはオレと話している間に少しは元気になったのか、ハッキリと番号を伝えてきた。
オレはメモすると父さんの所に行き電話の内容を伝えた。

数時間後、オレと父さんは札幌の病院に着いた。


<病室…>

病室に入っていくとマイが一人で看病していた。

「マイ…」

「あっ…」

マイはオレの声に気付いて立ち上がり、こちらを見た…そして、ポロポロと涙を流した…

「舞ちゃん…健次の具合は?」

マイは涙を拭った。

「さっき、凄く暴れて…看護婦さん達と抑えて…」

マイは状況を伝えようと涙を堪えて必死に喋っていた。

「今は、鎮静剤が効いているみたいで…落ち着いています。」

「そんな状態だったのか…舞ちゃん、大変だったね。」

マイは父さんにそう言われると小さく頷いていた。

「マイ、一人なのか?」

「愛は健一叔父さんの家にいます…」「あの子に今のお父さんの姿は見せたく無いですから…」

「そ、そうだよな…」「倒れた原因は?」

「脳卒中だそうです。」「だいぶ出血が酷いらしくて…」

「・・・・・・」「健一さんは来て居ないのかい?」

「健一叔父さんは今、仕事で東京に行ってるらしくて、なるべく早く戻ると連絡が在りました。」

「そうか…」「健一さんの奥さんは?」

「えっ…」「…」「そ、それは…」

そう話をしていると、ベッドから声が聞こえてきた。

「なあ光一、ここは何処なんだ?」

「!?」

「健次!気が付いたのか?」

「ああ、病院か?ココは…」

「そうだ、お前が倒れたと聞いて飛んで来たんだぞ」

「そうかー、それは悪かったなー」「…」
「おい、由香里…」

『?』

「何をぼーとしてるんだ?」「舞は居ないのか?」

「おい、舞ちゃんならそこに…」

「由香里、舞はどうした?」

健次おじさんはマイを見て言っていた・・・。

「そういえば、光牙くんも居ないみたいだなー」「2人とも、光一の家なのか?」

「・・・・」

「ああ、舞ちゃんと光牙はオレの家に居るから安心しろ」

「そうか…じゃあ、安心だな…」

健次おじさんは記憶が後退しているようだった・・・。
父さんの事は判るようだったが、マイの事を由香里さんと思っているようだった。

「由香里さん、先生を呼んで来てくれないか?」

父さんはマイに向かって明るくそう言った。
そしてオレに小さな声で「お前も一緒に行け!」と言ってきた。

父さんは健次おじさんといつもと同じ様な感じで話を続けていた・・・。
オレとマイはナースステーションへと静かに移動した。

・・・・

病室には戻らずにオレはマイを連れてホールへと行った・・・。


<怒り…>

夜のホールにはオレ達以外の人影は無かった。
オレはマイを椅子に座らせると、自販機に行き温かいミルクティーと冷たいスポーツドリンクを買ってマイの所へと戻って行った。

「マイ、飲めよ」

「うん…」

マイは差し出されたミルクティーを受け取ると、手でコロコロと回していた・・・。
オレは無性に喉が渇き、殆ど一息で飲み干してしまっていた。

「コウちゃん、相変らず凄い飲み方(笑)」

「そ、そうか?」

「うん」「・・・・」

 ・・・・

「あのね、お父さん…本当は昨日も具合が悪そうだったの…」
「でも、無理して私達の為に遊びに連れて行ってくれたの…」

「…私と愛との約束だからって…」

「止めて置けばよかった!」「私、お父さん無理しているの解かっていたのに!!」
「…私が…」「私が…止めて居れば…」

マイは行き場所の無い、悲しみと自分への怒りで震えていた。

「…マイは悪くない」「オレがおじさんだったらきっと同じ事してる」

「でも…」

「マイは悪くない」

オレはマイの頭を抱きながら撫でた。

「マイは悪くない…」「悪くないんだ…」

マイは声を出さずに泣いていた…二度とマイの泣き顔は見たくなかった…。
・・・6年前と変わらない。…これじゃあ何も変わって無いじゃないか!

オレは自分の無力さに怒りすら感じていた・・・

 ・・・・

健次おじさんは、記憶の後退などの障害は見られたがいちおう峠は越えて取り合えず、命の心配は無くなった。

父さんの話に寄ると、約10年ほど記憶が後退しているらしく、健次おじさんの中では光牙は5・6才の子供のはずなので「お前は病室に入るな!」と言う事だった。

仕方なく病院の表のベンチでボーッとしていると家族らしき面々がタクシーから降りて来た。

「まったく冗談じゃ無いわよ!」「ただでさえ迷惑かけてくれてるのになによ今度は!まったく!!」

ーとお母さんらしき人物がわめき散らしていた。

「おいそんな事、言うなよ」「仮にもオレの弟なんだから…」

ーとお父さんらしき弱そうな人物がなだめている。

「まあ、好きで倒れたとは思わないけどー」「いい加減にして欲しいよねー」

ーと娘らしき人物がむかつく言い方で降りてくる。

「ホント、ホント」「迷惑ばっかりかけてくれる一家だよねー」

ーと息子らしきガキがゲーム片手に降りた。

「ママー、あたしとライムはこの辺に居るよ」「あんなオジサンの見舞いなんてしたくないしー」
「ママも早く戻ってね!デパート行くんだから」

「そうだよ、パパだけで行ってきなよー」

「モカちゃんもライムちゃんもわがまま言わないでねー」「ママも行きたくなんか無いけど大人には世間体とかいろいろあるのよ。解かってね!」

・・・・もか?とらいむー?どんな字書くんだよw

「わかったー早く戻って来てね!」

・・・・まったく…なんちゅー家族だwww

「ほら、行くわよ。早くしなさい!」

ーとババアが声を張り上げた。

「…お姉ちゃんがまだ来ちゃだめって言ってたの」

ーと小さな声が答えた・・・もう一人居たのか…

「いいのよ、早くしなさい!まったく口答えばっかりして!」

ーとババアは小さな女の子を引っ張り出した。

・・・・・

「…アイ!?」

その女の子は毎日のように見ていた写真の大きくなった『アイ』だった。


<決心…>

その小さな少女は、間違い無く『アイ』だった。
赤ちゃんの時に別れて、一度も会っていなかったが毎年の成長は知っている・・・。

オレが『アイ』を見間違えるはずなどありえなかった。

「いやー、行かない。お姉ちゃんが迎えに来るまで病院には来ないって、約束したもん!」

「いいって言ってんでしょ!まったくこの子は!!」

「いやー」

嫌がるアイを無理矢理、引きずるように引っ張っていた。

「いい加減にしなさい!!」

そう言い、手を上げたその時、アイは小さくなって震えていた。

「おい、もういいじゃないか。舞ちゃんを呼べば…」

たぶん、健一さんであろう人が言い出す。

「もう、勝手にしなさい!!」

そう、捨てセリフを言うとダンナを連れて病院の中へと入って行った。
オレは一瞬の出来事に何も出来ずに呆気に取られていた・・・。

「ホント、愛ってママの言うこと聞かないよなー」

「愛もそうだけど、舞のヤツも何考えてるか判んないしー」

「ホント、この姉妹は厄病神だって。ママが家から早く出て行って欲しいって言ってたよー」

「しかし、愛が生まれた理由(せい)でオバサン死んでー」
「今度は、オジサンが死にそうーかーホントに厄病神だねー」
「あはは・・・」

2人の姉弟は楽しそうに笑っていた。
アイは小さな体をさらに小さくして耳を塞いでいた。

「おい!そこのくそガキ共!!」
「人間、言って良い事と言ってはいけない事があるのも知らないのか!」

「……まあ、あの親じゃ仕方ないかも知れないけどな」

アイはオレのことに気付いて顔を上げた。


「な・なによ、あんた」「あかの他人がシャシャリ出て来ないで欲しいものね!」

「そーだ、そーだ。出てくるなー!」

「他人か…」
「アイはオレの妹だ!!」

・・・・

「…なっなに言ってるのよ!」「その子には姉しかいないわ!!」

「そーだぞ、いないぞー」

「はっ、お前らが知らないだけだろ…オレはアイの『お兄ちゃん』なんだよ」

「うそー!」「なに言ってんのこいつ…頭、おかしいんじゃないー?」

オレはアイの方へと行きしゃがみアイと目線を合わせた・・・

「アイ、ごめんな。助けに来るの遅くなっちゃって…」

「………?」「…もしかして、コウガお兄ちゃんなの?」

オレはアイがオレの事を知っているとは思っていなかった、ただアイを助けたい、守りたい、ただそれだけで・・・

「ああ、オレはコウガ。アイのお兄ちゃんだ…」

「……」「……おにいちゃん~」

アイはオレにしがみつくとわんわんと泣き出した。
オレはアイの頭を撫でながら、決心していた。


<決断…>

泣きじゃくるアイの頭を撫でているオレを呆気に取られて見ている姉弟・・・
そこに、マイがアイの事を心配したのだろう、急いで表に出てきた…そして泣いているアイの姿とオレを見付けると安心したように顔を和らげた・・・。

「ちょっと舞!」「なんなのコイツ!!」「いきなり出て来て『アイはオレの妹だ!』なんて言ってんのよ!」

「…コウちゃん…」

その事を聞いたマイは嬉しそうに瞳を輝かせた。

「舞!!」

「あっ、はい」「光牙さんは、お父さんの古くからの友人である光一さんの息子さんで…」

「やっぱり、兄妹なんかじゃ無いじゃない!」

「そーだ、そーだ!」

マイの話を断ち切ってバカ姉弟は言い出す。

「……」「…いいえ!光牙さんは愛のお兄ちゃんです!」

マイが大きな声ではっきりと言い放つとバカ姉弟はビックリしていた・・・。

「確かに私と光牙さんは兄妹では無いです…けど、光牙さんはアイのお兄ちゃんなんです…。」

マイの言葉を聞いたアイは瞳に涙をためながら満面の笑顔を見せていた。
そして、オレにしっかりと抱きついてくるのだった。

「……舞。あんた何、言ってんの」「あんたと兄妹じゃ無いなら、愛と兄妹なはず無いじゃないの!!」

しばらくして、冷静になったのかバカ姉が言い出してきた。

「…ああ、オレとアイは確かに血の繋がった兄妹じゃない…」
「だけど約束したんだ、オレはアイのお兄ちゃんになるって…」

オレはアイを抱きかかえて立ち上がる・・・

「そう…オレはアイを守る…いや、アイだけじゃない」
「アイもマイも守る!そう、その為にオレは今、ここにいるんだ!!」

「アイとマイは家で引き取る。もうあんた達家族には渡さない!」

マイはオレの言葉を聞いて、両方の目から一筋の涙を流していた。

「あははは・・・」「あんた何いってんの?」
「あんただって、どーみてもまだガキじゃない」「どーやって引き取る気ー?バッカじゃないの!!」

・・・・・・

「そうだな、お前にはまだそんな権限は無いな」

いつの間にか父さんが、ババアと一緒に降りてきていた。

「父さん…でも!」

「でもも、かんもあるか!」
「こういうことは、お前の勝手な判断で出来るものじゃない!」

父さんは強くオレに言い放つ・・・そして、優しげな顔に戻るとアイの頭を撫でながら

「ちゃんと段取りをふまないとな!」

ーと言ってマイにウインクなんかしている・・・。

「-という訳で、奥さん。」
「突然で申し訳ありませんが、愛ちゃんと舞ちゃんを私の家でお預かりさせて頂きます。」

父さんの落ち着いた言い回しでしかも有無を言わせない口ぶりにオレは思わず歓声を上げそうになったがなんとか堪えていた。

マイはもう歯止めが効かないらしくポロポロと涙を流していた。
それを見ていたアイは嬉しそうに、オレとマイと父さんを交互に見ていた。

「-ええ、もちろん舞ちゃんは健次が病院を移動出来る状態になるまではそちら様で『大切』にして頂きたいと思っています。」「詳細は健一さんとしっかりお話致しますので、奥さんは御心配なさらないで下さい。」

「……健次は私の大切な友人なんです。その娘である愛も舞も私には娘以上の存在なんですよ。」
「…それは、コイツも同じ…無礼な口をきいていましたが、お許し下さい!」

ーと言いながら、オレの頭をつかみ無理矢理下げると自分も頭を下げていた。


<笑顔…>

あの後、3人はなにかしら言っていたが、父さんに言い負かされて病院を出て行った。

そしてマイは病室に戻り、健次さんの看病をして父さんと健一さんは別室で話をしていた。

残されたオレとアイは病院内にある喫茶店のような所でアイと…いやアイの話を聞いていた。

まずは昨日、行ったラベンダーのお花畑がすごく綺麗だった事…
いろんなハーブがあって鼻がオカシクなっちゃった事…
ハチミツたっぷりのパンケーキを食べた事…

目を輝かせて楽しげに一生懸命にオレに説明してくれた、そして…「おにいちゃん、もう1日早く来てくれれば、一緒に行けたのにー」ーと本当に残念そうに言ってくれた。

・・・・

しばらくすると、父さんと健一さんが店の中へと入って来た。
そして、健一さんはオレ達3人に向かって頭を下げて「愛と舞をよろしくお願いします」と言ってくれた。

・・・・面会時間がもうすぐ終了となる頃、3人で病室へ行った。マイは健次さんの傍らで座っていた。

「どうだい?」

「あっ、はい。今、薬が効いて寝ています」

ーと小さな声で答える。それを聞いたオレとアイは静かに病室の中へと入った。

「お父さん…」

アイはおずおずと健次さんの近くに寄って、マイの横まで行くとマイの顔を見る…
マイはアイを抱きかかえて健次さんの顔を見せた。

「お姉ちゃん、お父さんのぐあい良くなった?」

「……」「うん、かなり良くなったよ」

「よかったー!」

ーとアイとマイが話していると、健次さんが目を開けた…

「舞、来たのか?」

「えっ、あっはい」

ーと答えると、マイはアイの手を取り振って見せた。

「そうか…」

健次さんはゆっくりと手を伸ばして来る…マイはアイを抱きながら椅子に座った…
健次さんはアイの頭をやさしく撫でていた。

アイは嬉しそうに笑顔を見せた、健次さんも笑顔で眠りについていった・・・


<隠し事…>

札幌中央病院は完全看護の病院なので、今夜はマイも病院から出る事となった。
父さんはホテルの部屋を替えて貰って、アイとマイも一緒の部屋に泊まれるように手配していた。

アイはホテルに付く頃には、『お父さん』の具合が良くなった事と、みんなでホテルに泊まれるという事でハシャギまくっていた。
マイはお姉さんというより、若いお母さんの様にアイの世話に追われていた。

「なーマイ。アイと一緒に風呂でも行ってこいよ」
「下着はココに来る途中で、買ってきたんだろ?」

「あっはい」「じゃあ、ここの部屋のお風呂をお借りします」

「えっなんで??」「確かここ、大きい風呂が在るって言ってたぞ」

「えっ…と私も愛もそういうお風呂には慣れていないから…」

「でも、せっかく在るんだからこんなユニットの風呂に入らんでも…」
「アイは喜ぶんじゃないのか?大きい風呂?いくら慣れて無くても…」

「いいんです!」「…私達はこちらで…」

「でもさー」

「いいんです!!」「光牙さんこそ大きいお風呂に行かれたら如何ですか?」

なんか変な感じがしたが、マイが怒って言っていたのでしぶしぶオレは大浴場に一人で行った。
結構立派な風呂だった。

「やっぱり、風呂が良いと気分が良いな…アイが喜びそうなのになー」

だいぶゆっくりと入っていたはずなのだが、部屋に戻ってみるとまだ二人は風呂に入っているようだった。

「父さんは…まだ戻ってないみたいだなー」「まだ仕事先に捕まってるのかなー?」
「まあ、いきなり『今日、休みます。今、北海道です…』じゃなー、しかも明日は大事な取引が有るとか無いとか言ってたしなー・・・」

・・・・

「愛、ダメでしょ。ちゃんと拭いて!」

「きゃっきゃっ」

アイはよほど楽しいのか裸のまま風呂から出て来てしまっていた。
追っかけて来ようとしたマイはオレが戻っているのに気付くと顔を赤らめて風呂に戻って行った・・・。

「……………胸、小さいな…マイ…」

オレは一瞬だったが、しっかりとマイの上半身を見てしまっていた。
アイは裸のまま走りまわっていたので、オレの持っていたタオルで捕まえた。アイはそれでも楽しそうにきゃっきゃと言っている…

「!?」

すぐには気付かなかったが、アイの体のあちこちに赤くなっていたり、青くなっている所が幾つもあった・・・

「こ、これは…?」

「コウちゃん…気が付いちゃった?」

マイはバスタオル一枚を付けた状態で立っていた。
よく見るとマイの両腕にも似たような青あざのようなものがある。

「…まさか、あのババア達なのか!!」

「もう、いいの!」「もう、良いから…」

マイはオレをアイごと抱きしめた・・・

「もういい…コウちゃんが…コウちゃんが迎えに来てくれた、それだけで…」


<約束…>

今、アイはベッドの中ですやすやと眠っている…
その傍らで、マイは優しくポンポンと布団を叩く…

「そういえば、由香里さんも同じ事してくれてたな…」

・・・・・

「ねぇ、コウちゃん…」

「…何?」

「あのね…」「……ありがとう来てくれて…」

「何、言ってんだよ。当たり前だろ」

「ううん…ありがとう。私と愛を迎えに来てくれて」
「私、愛がこんなに嬉しそうにしているのを見るのは初めてなの…」
「もちろん、お父さんと3人で居る時は楽しそうにしているけど…」

「今日の愛は本当に嬉しそう…」

「コウちゃん…私と別れた時の事、おぼえてる?」

「ああ、当たり前だろ…」

オレは忘れもしない、あの時の事を思い出していた…

・・・・・

「マイ…」「……元気でな」

「うん…」

「アイと仲良くしろよ」

「うん…」

「……」「…………」

「…コウちゃん?」

「…早く戻って来いよ!」

「う、うん」

「いつまでも、戻って来ない時にはオレが迎えに行くからな!」

「うん!」

「じゃあな!」

「うん、じゃあね!」

・・・・

そうオレはマイと約束をしていた。『オレが迎えに行くと…』そしてマイはそれを信じていてくれた…

「あのね、前に一度だけ愛がどうしても泣き止んでくれなくて…コウちゃんの事を教えたの…」
「愛には、コウガっていうお兄ちゃんが居て私達のお母さんが眠っている神杜町っていう所で私達を待ってくれてるの…って」

「そして…いつまでも私達がもどれなかったら…コウガお兄ちゃんが私達を迎えに来てくれるから、それまで良い子にして居てね…って…」

「それから、愛はあまり泣かなくなってくれたかな?」
「その代わりに…」

『おにいちゃん、いつ来てくれるのかなー』
『おにいちゃん、まだ来ないの?』
『おにいちゃん、愛のこと嫌いになっちゃったの?』
『おにいちゃんってどんな人??』

「-って言って…凄く大変だったんだからー」「しかもお父さんや他の人にはコウガお兄ちゃんの話をしないように言い聞かせるの凄く大変だったんだからー」

「…そっかー、だからオレの事を知ってたんだー」
「でもアイの『理想のお兄ちゃん』にはほど遠そうだな、オレ」

「……そんなこと、無いよ」
「愛の顔を見れば判る。コウちゃんは愛の思っていた通りのお兄ちゃんだよ」

「コウちゃん…愛を宜しくお願いします…」

「…ああ、頑張るよ。アイが笑顔でいられるように」

・・・・・

「よし!頼んだぞ、おにいちゃん!!」

「なんだ、それ?」

「えー、私が『おにいちゃん』って言うの変?」

「…うーん、なんか…」

「やっぱり、『コウちゃん』?」

「いや、それは2人の時なら良いけど…他の人の前ではどうかと…」

「えー、じゃあ『コウガ様』?『御主人様』?(笑)」

「それは、ありえないだろ(笑)」

・・・・・

「なんだ、ずいぶん楽しそうじゃないか」

父さんが戻ってきた。すでに10時を過ぎていた…


<朝…>

オレはやる事が無く、ただボーッとテレビを見ていた…

「うにゅーん」

…不思議な声がした……アイが目を覚ましたようだった。

アイは自分の状況が判断出来ないのか、キョロキョロしている。
オレはアイの側に行った。

「あ、……」

アイは何か言いたそうに、シーツを持ってモジモジしていた。

「どうした?アイ」

「あ、あのね…」

「うん?」

「…おはよう……おにいちゃん…」

アイはとても小さな声でそう言ってきた。

「はい。おはよう!アイ」

オレがそう言うとアイは表情を明るくしたそして…

「おにいちゃん!おはよう!!」

今度は大きな声で挨拶すると、そのままオレに抱き付いてすりすりしてくるのだった。

「…ねえ、お姉ちゃんは?」

「ん、マイか?」「マイは健次さ…『お父さん』の所に行ってるよ」

「一人で行っちゃったの?」

「いや、オレの父さんと一緒に行ったよ」

「そうなんだー」「…私は『お父さん』の所に行っちゃダメなのかなー?」

「うーん…やっぱり、『お父さん』の所に行きたいよね」

「…うんと、お姉ちゃんがダメって言うなら私、行かないよ」
「………おにいちゃんも、行っちゃう?」

「オレは、アイと一緒に居るよ。出掛ける時も一緒だよ」

「…おにいちゃーん」

また、抱き付いて来る…今度はさっきよりもだいぶ長い間すりすりしていた。

・・・・

昨夜、父さんが戻って来たのは10時を過ぎた頃だった。

「愛ちゃんは、やっぱりもう眠っちゃってるかー…」

父さんはアイの側に行き寝顔を確認すると、柔らかい髪をやさしく撫でていた。

「舞ちゃん、悪かったね。遅くなっちゃって、本当は愛ちゃんを含めてみんなでちゃんと話をしようと思っていたのだけれど…」

「え…いいえ」「あっ今、愛を起こしますので…」

「あっいいよ」「起こさないで、寝かせてあげよう…」

「でも…」

「いい、いい!」「愛ちゃんには明日、光牙が説明すれば良いだけの話だ」

父さんの話では、明日どうしても一旦仕事に戻らない訳に逝かなくなったらしく明日のAM9時頃の飛行機で戻る事にしたらしい。
そこで、朝早くマイと一緒に健次さんの状態を見に行ってその足で空港に行く事に決めた。

そして、明後日の朝か遅くても昼までには、このホテルに戻って来て、アイを連れて神杜に戻るつもりだと言っていた。

マイはその意見に同意した。

よってオレはそれまでにアイの身支度をして置くようにつまり明日(今日)の内にあの家に行ってアイの身支度をしなくては成らないのだ…

…そして、一番重要な事をアイに伝えなくてはいけないのだ…そうマイとしばらくの間、離れて暮さないといけないと言う事を…



<説明…>

「アイ、大事な話があるんだ…」

オレがそう言うと、抱き付いていたアイはオレから離れてちょこんとベッドの上に座った。
オレは横にあるベッドにアイと対座するように座った。

「アイ、あのな…」

オレはなるべく判り易いであろう言葉を選んで話していたつもりだったが、最後の方は自分でも良く判らなくなってシドロモドロに成っていた…。

「…おにいちゃん、良いかな?」

「えっ…うん」

「つまり私は、明日おにいちゃんといっしょに『かみもり』っていう所に行けるように今日の内に『あの家』に行って必要な物をとってくれば良いんだよね」

「うん、そう…」

「それで、お姉ちゃんは『お父さん』のかんびょうがあるからすぐには行けないってことなんだよね」

「そう…そうなんだマイとしばらくの間、離れなくちゃいけないんだよ」

「うん、わかったよ」「…でも、おにいちゃんは私といっしょにいてくれるんだよね?」「私、おにいちゃんがいてくれればだいじょうぶだよ」

「………」

オレは何を一人で心配していたのだろう…
そういえば昨日、マイも父さんもまったく心配していなかったような気がする…

オレがその事はマイが話した方が良くないか?-と言っても

「光牙さんは、愛にとってはお兄ちゃん所か白馬の王子様みたいな存在なんだから私の言う事より聞いてくれると思うけど?」

「おい、お前はお兄ちゃんになるんだぞ。その位、自分の言葉で伝えろ!」

その時は、二人とも気楽に言ってやがるなーと思っていたが…いらぬ心配をしていたのはオレの方だったらしい…

「…おにいちゃん?」

「…アイは頭が良いな」

オレはアイの頭を撫でた。アイは嬉しそうにはにかんでいた。

『グッウ~』と緊張から開放されたせいかオレの腹が盛大になった。
そういえば、朝食の時間はとっくに過ぎていた。

「アイ、朝ごはんを食べに行こう!」

「うん!」

オレはアイの手を取ってホテルの食堂へと向かった。
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